高山市桐生町にオープンしたおでん屋さん「酒処きなこ」さんへ取材に行ってきました。高山でおでんといえば味噌おでんが主流ですが、こちらは昆布とカツオでダシをとったつゆが魅力の静岡おでん
なぜ高山で静岡おでんなのか、開店までの経緯やおすすめの具材なども含めて店主の宮下さんに聞いてきました!
なぜ高山で静岡おでん?

──開店までの経緯をお聞かせください。
店主 宮下さん:もともとは本町の周辺で居酒屋をやっていたんです。そこでおでんを出してみたら、お客さんから美味しいと言って喜んでもらえて。結局そこは、コロナの影響を受けてだめになっちゃんたんです。でも、その経験が「きなこ」をおでんをメインとして出店するきっかけになっています。
──なぜ高山で静岡おでんなのでしょうか?
私自身が静岡出身なんです。静岡では駄菓子屋さんに置いてあるくらい、おでんは身近な食べ物。おでん鍋に串が刺さった具材が入っていて、そこから自由に取って食べる。そして、食べ終わったら、串を数えてお金を払うんですよ。駄菓子屋さんで、面白いですよね。他の土地に行って、その文化は静岡だけだと知ったときはびっくりしました。私にとって身近な食べ物でもあったので、静岡おでんを出すのは自然な流れでしたね。
高山に住んでいる静岡出身の方が、食べに来てくれたりもしたんです。その方からも「静岡おでんの味」とお墨付きをいただけました。そのときは、ほっと一安心しました。
高山ならではのお客さんとの距離感

──この場所でお店をやろうと思った理由をお聞かせください
主人にもお店を手伝ってもらっているんですけど、実は主人が車いすでして。なので車いすでも出入りしやすい、広い厨房をマストにお店を探していました。その結果、ここと出会うに至ったという流れですね。立地とかは二の次だったんです。
──この場所だと以前のお店とは違うと感じますか?
全然違いますね。前のお店だと観光客の方も来られていましたが、この場所だと地元の人がメイン。観光客の方はほとんど来られないです。地域の人とのふれあいがあって、距離感もぐっと近いなと感じます。
店員とお客さんという感じは薄くて、家族や近所の人みたいな接し方をしてもらっています。ドアの前に名前も書いていない野菜が置いてあったりして。「これは一体?」と思っていると、あとから「置いといた野菜食べたか」なんて言われる。近所の常連さんが置いてくれてたんですよ。その時はメモでも入れておいてよなんて言ったんですけど、この距離感はここへ来てからで全然違うなと思いましたね。

──どんなお店にしていきたいですか?
しっかり食事をするというよりは、夕ご飯前や仕事終わりにちょっと一杯と寄ってくれるような店でいいのかなと思います。逆に夕飯を終えて、ゆっくり飲みに来る方もいますね。地域の寄り合いじゃないですけど、そういう場であるといいかなと思います。
正直なところまだ試行錯誤の段階で、不慣れなことも多いです。お客さんや近所の人に励まされながらやっていますね。
──店名のきなこの由来はありますか?
あまりしっかりとした由来はなくて、語感が決め手ですね。横文字の名前はイメージが違うし、なにか親しみやすい名前はないかなと考えていたところ、ふっと思いついたものがきなこでした。お餅屋さんかと思ったなんて言われたこともありますけど。あまり堅いイメージは違うなと感じていて、お店のロゴも丸文字で優しいものをあえて選んでいます。
──雰囲気の柔らかさは宮下さんのお人柄にもあっていて、お店にぴったりですね
そう言って貰えると嬉しいです。色々と手作りでやっているだけで、本当に大したものではないんですよ。
透き通ったつゆ。おすすめの具材

──おでんのこだわりをお聞かせください
静岡おでんといえば真っ黒いつゆというイメージがあると思いますが、うちではそういうものは使っていないんです。毎回、昆布とカツオでダシを取った、透き通ったつゆを使っています。ダシにはこだわっていますね。
静岡おでんの黒いつゆって、継ぎ足ししながらやっているんですよ。うなぎ屋さんの秘伝のタレのような感じですね。でも、それだと飲めないんです、つゆまで飲むと無くなっちゃうので。おでんのつゆっておいしいですよね。やっぱり飲めちゃうものでやりたくて今の形にしました。おでんのつゆで食べるうどんもお出ししていますよ。
そのつゆで煮たものに、静岡おでんならではの青のりとダシ粉をふりかけて召し上がっていただいています。
──おすすめの具材はありますか?
おすすめは色々ありますが、強いて言うなら黒はんぺん、牛すじ、こもどうふですね。
「黒はんぺん」

静岡おでんといえば黒はんぺん。焼津のお店から直接仕入れしています。高山の方には、あまり馴染みのない食べ物かもしれませんね。はんぺんというより、つみれのような食感。お魚の旨味が感じられますよ。
「牛すじ」

牛すじも人気ですね。花里町のト一精肉店さんから仕入れしています。牛すじはダシが出るので、その良し悪しで全体の味まで変わってきます。始めはダシを取るだけにしていたんですが、お客さんからそれも食べたいという声があったので、お出しすることにしました。柔らかく煮るのは難しいですが、手間をかけて作っています。
「こもどうふ」

高山の名物こもどうふ。ダシがしみるので、実はおでんによく合うんです。これはご家庭でもできるので、ぜひやってみてください。


そのほかに、干物も沼津のお店から仕入れしています。干物ってパサパサしているイメージがありますけど、干しすぎてないジューシーなものを用意しています。それも召し上がってもらいたいですね。
お客さんの「きなこる」が嬉しかった
──お店をやっていて嬉しかったのは、どんな時ですか?
お店に来ることが、お客さんの日常に溶け込んでいるんだなと感じたときですね。お客さんがきなこに来ることを「きなこる?」と表現してくれていたんです。それが嬉しかったですね。よくある言い回しかも知れないですけど、お客さんの日常になっているんだなと感じて。そういう日常にあるお店であれたらいいなと思います。
──最後に地元の方へメッセージをお願いします!
気軽に足を運んでください。まだ試行錯誤で、本当に大したことはないんですが、地域の人同士のコミュニケーションの場所でありたいと思っています。
店主の宮下さん、お店の雰囲気もとっても柔らかくて落ち着く空間でした。おでんを食べて身も心も温まりに行ってみてはいかがでしょうか。
酒処きなこ
住所:高山市桐生町5丁目321-2
営業時間:18:00〜22:30
定休日:日曜日、月曜日
電話:080-2034-4961
SNS:Instagram
駐車場:有
予約方法:電話、インスタグラムから